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第5部開幕前夜(上)8兆円の攻防、ガス戦国時代――東ガス、日本瓦斯(電力ビッグバン)

2016.03.07

東ガス 訪問軸に5万件奪う
日本瓦斯 東電と組み地盤固め
 4月1日の電力小売り全面自由化まで1カ月を切った。これまで東京電力など大手10社が独占してきた約8兆円の家庭用電気の市場を巡り、新規参入する東京ガスなどがどのような戦略を描いているのか。日本のエネルギー分野の大改革を直前にした各社の攻防を取材した。
 「保安や営業で地道に街中を回る制服姿が信頼感になった。東京ガスが一番安心できるわ」。東京都品川区に住む大嶋家は電力契約の申し込みが始まると即座に電気の購入先を東ガスに決めた。
 夫婦と娘2人の大嶋家は、年間の電気料金は1万4千円程度安くなるという。東ガスは2015年末に電気料金プランを発表したが、2月1日には追加値下げを発表。妻の貴子さん(46)は「家計を預かる以上電気代も大切。節約できてラッキー」と話す。
 大嶋家の東京電力からの切り替え決定を後押ししたのが、ガス器具などを販売する東京ガスライフバル品川(東京・品川)営業担当の大河内賢二さん。何百、何千と訪問した顧客の中から「太陽光発電やエネファームの導入を検討して頂いた方は電気に関心を持っているはず」。大嶋家に1月上旬の受け付け開始早々に電話し駆けつけたところ契約に結びついた。
 東ガスの強みがまさにこの「訪問営業力」だ。関東に200以上の販売店を有し、ガス器具の定期的な保安やトイレや窓の取り換えなどリフォームの相談も実施。営業担当は家族構成やガス使用量を知る。300人の電力営業担当が顧客の家に入って説明する地道な手法によって現在までに5万4000件の申し込みを獲得した。
 「電気、ガスや通信など生活全般をワンストップで提供」(事業革新プロジェクト部の笹山晋一部長)するセット販売などで20年に首都圏の電力需要の1割を確保する目標だ。2千万件以上の顧客を持つ東電の壁は厚いが、広瀬道明社長は「掲げた旗は降ろさない」と話す。
本業の強み活用
 4月の電力小売り全面自由化に向け異業種各社は本業で培った強みを活用して新規参入する。今回自由化される電力市場は8兆円以上とみられており、2月23日時点では約200社が参入した。ガスから石油元売り、携帯電話など多種多様だ。各社が相次ぎ4月以降の料金プランを発表し、電力とガス、通信、ガソリンとのセット販売を拡充。追加値下げや料金プランの追加も出てきた。
 背景にあるのが17年に始まる都市ガス小売り自由化への危機感だ。
 16年度は電力大手から顧客を奪う側だが、東ガスは17年度には約1100万件ある契約を維持するための防戦体制を敷くことになる。広瀬社長は「ガスも2~3割程度は契約切り替えが起こるかもしれないと社内では話している」と明かす。電力小売りで収益基盤を確保してガス自由化に挑むことは重要だ。
 エネルギー販売が自由化された国では電気とガスをセットで販売するケースが多い。実際に東ガスの契約者についても「ガスと電気のセット割の顧客がほとんど」(事業革新プロジェクト部の村越正章マネージャー)だ。ガス会社が本業のガスと電気を今春にセットで契約すれば、17年の都市ガス小売り自由化になっても、契約継続につなげられる可能性がある。
 「攻めるためにまず守る」。日本瓦斯の和田真治社長の目線の先にもガス自由化が映る。同社の主力事業はLPガス販売で、都市ガスも販売する。LPガスは都市ガスが通っていない世帯が利用する。
 主戦場の東電管内にはまだ都市ガスが通っていない地域も多く、東電と組みながら、LPガスと電気のセット販売で年6千円程度値引くプランをいち早く用意した。まず電気とLPガスのセット販売で事業を拡大した上で、17年の都市ガス小売り自由化では東ガスの顧客を奪うのを視野に入れる。
 日本瓦斯はすでに自由化市場で戦った経験を持つ。11年に米国で会社を設立し、テキサス州やニューヨーク州などで電力やガスを販売。顧客は15年に約18万件と毎年伸び続けている。和田社長は「契約を獲得するためには個別訪問が最も効果的」と話す。営業員が連日のように各家庭を回り売り込みをかける。
 日本でも手法は同じだ。すでに自由化したLPガスでは営業員が顧客先をくまなく回り、家族構成など貴重な情報を持つ。製品の出荷や配送で自社開発のクラウドシステムを導入しムダを省いたコスト競争力が武器だ。
陣営作り進む
 電力小売りをきっかけとして、地域のガス会社を巻き込んだ陣営作りも進んでいる。顧客件数は大手ほどないが、地域密着の営業体制を持つ。東ガスはかねてガスの卸供給をしてきた会社と連携体制を構築する一方、中部電力と国際石油開発帝石も関東の中堅ガス会社との連携を始めた。いち早く陣営を作ることはガス自由化の販売戦略にもつながる。
 ガス小売り参入を表明している東電は「東ガスから卸供給を受けているガス会社との連携も考えていく」(佐藤美智夫執行役員)。消費者への営業力が弱いとされる東電が電力販売で日本瓦斯を提携先に選んだのもその戦略の端緒だ。
 「17年の攻めに向けて16年は準備期間」(日本瓦斯の和田社長)。攻めと守り、各社の思惑が交錯しながら日本のエネルギー市場は変化の時を迎える。
 
 
 日経産業新聞,2016/03/02,ページ:1

 

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