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ソフトバンク、新電力の勝算は、節電促し家計手助け、SBパワー社長馬場一氏、携帯店舗を相談拠点に。

2016.03.01

 ソフトバンクは4月の電力小売り全面自由化に合わせて家庭向けの電力小売りを始める。スマートフォン(スマホ)とのセット割引や節電を促す料金プランなど、ソフトバンク流の企画力と営業力で挑む。通信業界で競合するKDDIなどを含め170社ほどが参入する推定8兆円の新市場で勝算はあるのか。執行役員エナジー事業推進本部長で子会社SBパワー社長の馬場一氏に聞いた。
 ――KDDIが電気代の最大5%を割り引くプランを発表したのに比べてソフトバンクの料金は驚きに欠けるとの指摘があります。
 「料金の安さばかりに注目が集まるが、節電するほど得になるように工夫を凝らした。例えば主力商品の『バリュープラン』は月の使用量が300キロワット時までは定額で、それを超えると割安になるが、使用量が300キロワット時に満たない場合でも使わなかった量に応じて共通ポイント『Tポイント』を付与する」
 「ポイント還元の代わりにスマホで使えるデータ通信量を増やすことも可能だ。スマホとセットで契約すれば利用料を月最大300円割り引く施策を設けるなど、料金で比べても競争力のあるプランを実現している」
 ――東京電力と提携した狙いはどこにありますか。
 「電気を安定的に供給する力がある。東電と組んで提供する新料金では30分ごとの利用量に応じて基本料を割り引くプランも選べる。今までの節電はエアコンを消すなど我慢を強いていた。ピークに応じて基本料が変動するプランなら、使う時間を少しずらすなどの工夫で電気代を安くできる」
 「各家庭が利用量を平準化し、社会全体のピークが下がれば夏場などの電力不足も防ぎやすくなる。将来はIT(情報技術)を生かしてエアコンや電子レンジなど複数の家電の動作を自動調整するなどの節電サービスをめざしたい」
 ――再生可能エネルギーを売る独自プランも予定していますね。
 「ソフトバンクグループのSBエナジーが太陽光などの発電事業を手掛けており、クリーンな電気を選べるようにする。全国に複数の発電設備を持つソフトバンクグループならではのサービスだ」
 「ウェブサイトで電気料金を診断できるのはもちろん、携帯販売店に検針票を持参するとお得な料金プランや節約額などを提示するサービスも始めている。じっくり座って相談ができるのはほかの参入企業にはない強みだ」
 ――当初の提供エリアは東電管内のほか関西電力と中部電力の管内に限られますが、全国展開の見通しは。
 「本業の携帯電話事業でも地方都市のシェア拡大にむけて店舗改装などを進めており、携帯販売店に競争力のあるサービスをいち早く提供するためにもエリア拡大を急ぎたい」
 「ガスやガソリンなど様々なエネルギーとのセット割引なども模索中だ。当社と提携先が獲得したい客層と顧客のニーズ、料金戦略などを勘案して組む相手を考える」
電気知識強みに
新サービス構想
 「60年に一度の大改革をバナナのたたき売りで終わらせてはいけない」と馬場氏は電力改革の意義を強調する。単なる料金競争ではなく、節電を促しながら家計の負担を減らすことが大切だと考える。
 馬場氏は昨年に電力小売事業の責任者に就くまでは、携帯電話の企画部門で学割サービスを仕掛けたり米動画配信大手ネットフリックスとの提携をまとめたりと新規事業を担ってきた。
 電気事業とは無縁のようだが、実は電気工事士の資格を持つ。関連知識は電力会社との交渉などに生きるという。提携先やサービスエリアの拡大に向けて、馬場氏の新サービス請負人としての力が問われる。(大和田尚孝)
 ばば・はじめ 1965年生まれ。大阪電気通信大学工学部通信工学科中退後88年日本ソフトバンク(現ソフトバンク)入社。携帯電話事業のマーケティングや営業などを経て15年から現職。
 
 
 日経産業新聞,2016/02/26,ページ:11