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電力小売り最前線迫る自由化(下)目覚めた顧客、流出危機――中国電、新料金や越境視野。

2016.02.08

 「小売事業者の設備が故障したら電気は止まってしまうのか」「停電時は購入先によって復旧の早さに違いはあるのか」。1月18日、広島市の合同庁舎で中国経済産業局が開催した電力小売り自由化説明会。参加した広島県内の消費者や企業の担当者らからはこんな質問が相次いだ。 20社が進出検討
 自由化に伴い電気の購入先が選べるようになることは、一般家庭や企業の活動に大きな影響を与える。説明を担当した経済産業省・電力取引監視等委員会の円尾雅則委員(50)は「今回の自由化は生活に直結してくる。需要者側も疑問を解消しようと積極的で、関心は非常に高い」と話す。より安く便利な購入先を選びたいという消費者の意識は日に日に高まる。
 消費者意識の変化は地域独占で顧客を囲い込んできた中国電力にとって大きな脅威だ。小売電気事業者として登録している企業のうち、オリックスなど異業種を含む20社が中国地方での電力供給を検討している。料金メニューやサービスが多様になれば、顧客流出が加速する可能性が高まる。
 「変化に柔軟に対応し電気販売量を死守する」。1月29日、中国電力の次期社長に内定した副社長の清水希茂(63)は会見でこう述べた。就任は4月1日付。社長交代は株主総会後の6月末というのが慣習だった中国電にとっては異例のタイミングだ。会長の山下隆(72)は自由化に対応するための「前倒しの人事」と強い危機感をにじませる。
 経営体制の刷新と合わせて、顧客の流出を最小限に食い止めるためのカードを着々と準備する。柱がポイントサービスだ。電気料金に応じてたまったポイントを特産品などに交換できる。イズミやプロ野球の広島東洋カープなど一般家庭になじみの深い企業と連携して商品券やグッズなどにも交換できるようにする。
 新たな料金メニューも設定する。顧客の利用実態に合わせ月額料金を割り引く4つのプランを用意した。家族構成や使い方によって選べる分かりやすいメニューを意識した。ただ社長の苅田知英(67)は「これで終わりではなく、4月以降もよりよいサービスに向け努力を続ける」と話す。競争力が乏しければ、もう一段の料金改定もあり得る。 海外・他地域に
 顧客流出を防ぐ施策だけでは収益の悪化は免れない。料金の実質値下げやシステム投資の負担増は確実に収益の足を引っ張る。それらを吸収し持続的に成長するためには、電力会社が守られてきた「地域独占」の殻を自ら破るしかない。すでに海外発電事業への本格参入を表明したほか、他地域での電力小売り参入にも意欲を見せる。
 自由化やその先の発送電分離など、電力業界は今後さらに大きな変革の時代を迎える。「地域で選ばれ、地域をこえて成長する企業グループ」――。今年新たに経営ビジョンに掲げた目標は、今後の厳しい事業環境を勝ち残るという決意表明だ。中国電は今、その実現に向けた重大な岐路に立っている。
 
 
 日本経済新聞 地方経済面 中国,2016/02/04,ページ:11