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ガス販売自由化へ半年、「競争力ある価格に」、中部電・清水取締役に聞く、保安分野で連携も。

2016.10.24

 中部電力は来年4月のガス販売の全面自由化で、東邦ガスの全契約の1割弱に当たる20万件を5年間で獲得する目標を打ち出した。小売部門を統括する清水成信取締役(販売カンパニー社長)は日本経済新聞の取材に対し「競争力のあるガス価格にする」と話した。ただ保安サービスなどではガスは電気と異なるノウハウも求められる。他社との連携など新たな施策が課題になりそうだ。
保安陣容に差
 清水氏はシェアを奪うために価格勝負を挑む姿勢を示した。「(ガスを顧客に届けるために東邦ガスに支払う)託送料金が決まっていないので明確にはできないが、競争力のある価格にする」とし、東邦ガスよりも安い価格を打ち出す考えを示した。セット料金のほか、ガス契約単独のプランも設定するもようだ。
 中部電は東京電力と共同で設立したJERA(東京・中央)を通じて調達した液化天然ガス(LNG)を愛知県知多市などの基地で受け取り、自社や東邦ガスの導管のほか、タンクローリーで供給する。中部電の調達量は東邦ガスの約4倍。大量購買で調達価格を抑えられれば、値下げ余地も出てくる。
 東邦ガスの料金は東京ガスや大阪ガスに比べて高い。東邦ガスが対抗値下げに動く可能性もあり、自由化当初から価格競争が激しさを増す公算も大きい。
 清水氏はまた、10月にガスの保安・営業・管理を担う20人規模の専門部隊を発足したことを明らかにした。ガス会社には安心感を重視する顧客が多く、契約獲得のためには保安分野の体制の強化は不可欠だ。「自前で保安のレベルを確保していく」と強調する。
 ただ東邦ガスはガス機器の修理や点検など保安分野に従事できる社員が関係会社を含めて3000人規模に達する。清水氏は「経験値を積み上げてから(参入する)と言うわけにもいかない」と陣容の違いを認めたうえで、ガス関連会社と提携して補う考えも示した。関西電力は保安分野で岩谷産業と組むことを決めた。パートナー探しのスピードもカギを握りそうだ。
 一方、今年4月からは電力小売りの全面自由化が始まっている。9月末時点での中部電からの契約者の流出件数は14万6000件と同社全体の2%強にとどまっている。清水氏は「(顧客が)わかりにくく悩んでいる印象がある」と分析する。
 ただ今後新電力や大手電力の新サービス次第では流出が加速する可能性もあり、清水氏は契約者の囲い込みに手を打つ姿勢を示した。今秋以降に会員制ウェブサービス「カテエネ」内にある電気の利用状況などを確認できるコンテンツを、インターネットを利用しない契約者にも新たに広げる方針だ。ポイントの提携企業を増やす方向でも検討している。
電力では守り
 先行して自由化された工場など法人向けの供給については「(顧客の)離脱が起きており、実質マイナスになっている」と明らかにした。東京電力系が名古屋に拠点を開設するなど大手電力会社や新電力の越境販売の攻勢が強まっているためだという。省エネルギーの助言サービスを顧客企業の海外拠点に提供するなどサービスを拡充して法人顧客の流出回避を急ぐ。
 一方、出足が鈍かった首都圏での電力小売り販売は「新メニューの投入や提携企業の拡大で実感として手応えはあり、数字は少しずつ積み上がっている」と自信を示した。足元で5000件にとどまる契約数の10万件到達を目指し、攻勢を強める。
 ガス自由化という攻めと電力自由化という守りの分野でそれぞれ戦略の実行力が一段と問われそうだ。
 
 日本経済新聞 地方経済面 中部,2016/10/21,ページ:7