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戻った行列10カ月連続増収、縮んだマック「9割回復」、新作小分け投入話題に、待ち時間10秒短く。

2016.10.24

 日本マクドナルドの業績回復が鮮明だ。既存店売上高は9月まで10カ月連続の増収となり、品質問題が発覚する前の2013年の「9割掛け水準」まで持ち直した。新商品がヒットしたことなどで、店に行列する客の姿が戻りつつある。ただ、店員の人手不足問題などリストラの後遺症は今も尾を引く。「マック復活」は本物なのか。
 「マクドナルドに客が逆流し始めた」。同業のファーストキッチン(東京・新宿)のマーケティング担当者は顔を曇らせる。
 同社が既存店売上高の増減率を調べたところ、半径100メートル以内にマクドナルドがある店はほかの店に比べ軒並み3~4ポイント悪いことが分かった。昨年まではマクドナルドから流入したとみられる客が目立って増えていただけに、状況は様変わりした。
 期限切れ鶏肉問題や異物混入問題を機に、14~15年に2期連続で最終赤字となるなど過去最悪の危機に陥ったマクドナルド。店数は3000を割り込みピーク比で2割強も縮んだが、今年に入り既存店の売上高は2ケタ増が続く。
 「こんなに新商品を立て続けに出すのか」。7月、都内で開かれた戦略説明会に参加したフランチャイズチェーン(FC)オーナーは目を丸くした。会場で示されたカレンダーに例年以上に新商品の発売予定と関連のキャンペーンが詰め込まれていたからだ。
 マクドナルドは従来ハンバーガーの新商品を発売するのと同時にドリンク類やサイドメニューの新商品も出していたが、今年から一つ一つの商品を小分けして投入する戦略に変えた。
 きっかけはマーケティング部門のトップ交代だ。社外から招いた足立光氏が昨年10月にマーケティング本部長に就任。サラ・カサノバ社長らと話し合いながら、複数の商品を同時投入する従来のやり方を見直した。足立氏は「毎週のように新商品を出し、常に話題を創った方が顧客の来店頻度を高めやすい」と狙いを話す。
 新商品の点数自体は変わらない。だが、新商品の発売があった日は、今年1~9月で24日と前年同期比で約2倍に急増した。「今年は本当に新商品の切れ目がない。ポスターの張り替えなど店頭の準備だけでも大変だよ」。FCオーナーからはうれしい悲鳴が上がる。
 成果は明確だ。例えば森永製菓と組み、9月21日から発売した「マックシェイク森永ミルクキャラメル」。パッケージもミルクキャラメル風のデザインにしたことなどが注目を集め、10月中旬までの販売予定だったが多くの店では1週間ほど前倒しして完売した。
 主力のバーガー類では野菜を多く使う「フレッシュマック」などヘルシー路線を打ち出した15年とは一変し、マックファンが期待するボリューム感や味わいを重視する戦略に切り替えた。「ビッグマック」より一回り大きい「グランドビッグマック」や、パティを増量した「クラブハウスバーガー」が相次ぎヒットしたのはその象徴だ。
 「新規顧客の取り込みは容易ではない。リピーターの来店頻度を上げる方がより確実」。足立氏は説明する。リピーターの集客に向け、ファストフードならではの「より早く」商品提供できる体制づくりも進み出した。
 東京都町田市郊外にあるマクドナルド鶴川店。7月に改装したばかりの店でドライブスルーの売り上げが急伸している。商品の提供スピードを速め、より多くの顧客に対応できるようになったためだ。
 同店では改装に伴い、商品の注文口と受け取り口の距離を従来より2メートルほど離した。わずかな改善だが、厨房の担当者は調理の時間をより長くとれるようになり、受け取り口でドライバーを待たせることが大幅に減ったという。
 「改善ポイントは20~30項目もある。売り上げも最大で1割ほど伸びる効果がある」。現場の改善活動を主導する下平篤雄副社長は語る。注文口を2つに増やしたり、道路上に車列がはみ出さないようにレーンの配置を見直したり。約1500店あるドライブスルー併設店は今年から改装が本格化したが、大半の店で細かい改善を施す。
 ドライブスルーだけではない。昨年からの改装で、すでに約540店に新型カウンター「デュアルポイントサービス」を導入。商品を注文する場所と受け取る場所を明確に分けることで、商品提供までの時間を平均10秒短縮したという。
 復活への歩みが進む中、ブランドイメージの失墜に悩まされてきたFCのオーナーからも最近は前向きな声が聞こえ始めた。「回復フェーズは来年1~3月まで。そこから先は再び売り上げを伸ばしていくフェーズだ」。鶴川店のオーナー、竹内久雄氏は期待する。
 
 日経MJ(流通新聞),2016/10/17,ページ:1