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電力自由化から半年エネ小売り最前線(上)新顔、地域密着で格差――生協・大ガス、安心感後押し。

2016.10.03

 家庭向けの電力小売りが全面自由化されて10月で半年となる。新市場には関西だけで50以上の事業者が参入したとみられるが、消費者の反応は鈍い。新電力などへの切り替えは8月末時点で全国が約168万件(全体の3%弱)、関西電力管内では約34万件(同3%強)にとどまる。そうした中でも順調に顧客を獲得する事業者とシェアを拡大できない事業者との差も鮮明になってきた。
潜在顧客50万人
 「4月から電気の販売を始めました。契約年数の縛りなど一切ありませんし、いかがでしょうか」。9月2日夜、大阪いずみ市民生活協同組合(堺市)の営業員が大阪府和泉市の組合員宅を訪問した。主婦の石田広美さん(32)は「どのくらい安くなるのか」「プランは途中で変更できるのか」など熱心に質問した。
 同生協は「コープでんき」という名称で電力小売りに参入。月平均400キロワット時の電気を使う家庭で関電よりも年間7千円程度安くなるプランを用意した。参入から5カ月あまりで1万9559件の契約を獲得し、関電管内では大阪ガスに次ぐ規模とみられる。契約した堺市の主婦、佐藤まゆみさん(58)は「宅配で普段から顔なじみなので安心感がある」と語る。
 同生協では17人の営業員に加え、期間限定で450人の宅配の配達員も電力販売に携わる。「地元密着の営業網の特性が生きた」と森晃執行役員は話す。50万人の組合員の過半数が宅配を利用しており、潜在的な顧客になるとみる。今後、他の生協も家庭向けの電力販売に参入する見込みだ。
低価格でも苦戦
 7月までに約17万件の顧客を獲得した大ガスは今年度の目標の20万件はほぼ達成が確実な情勢だ。同社も京阪神地区で約120社にのぼる「サービスショップ」と呼ばれる販売代理店網が強みだ。検針やガス機器の修理を通じて地域住民とは顔なじみ。4月の自由化前後から一斉に営業攻勢をかけて関電から顧客を奪った。大阪府茨木市のショップ経営者は「価格メリットより信頼感・安心感で選ばれている」と話す。ピークでは大ガス全体で1日1千件近い顧客を獲得している。
 一方、関電より安価な料金を提示しながら伸び悩んでいる企業も多い。例えば四国電力。関西には四国出身者が多いものの「現時点での契約者数は非公表。想定にやや届かない水準」という。苦戦の理由について四国と東京にしか事業所がないことを挙げ「関西圏への営業はダイレクトメールや電話などがほとんど。足場がなく、人員も割けない」とこぼす。
 同じことは上新電機などと提携して7月1日に首都圏に進出した関電にもいえる。関西出身者らの加入を期待したが「1千件程度ではないか」(関係者)との見方も。「3年で10万件」(関電の八木誠会長)とした目標達成は簡単ではない。
 顧客獲得数で差が広がってきた背景について、ある新電力の営業担当者は「地域に密着した人的ネットワークの有無がすべて」と言い切る。「災害時の復旧で『後回しにされるのではないか』などと不安視する声も聞く。電気は生活に欠かせないインフラだけに安心感が大切」と語る。
 顧客流出が続く関電は10月、切り替えが多い世帯向けに新料金メニューを出すなど防戦に躍起になっている。3%強の切り替えは現状「相当数が利ざやの小さい300キロワット時以下のはず。(企業や工場など)大口の離脱の方が経営への影響は大きい」(経済産業省幹部)ようだ。
 関西での家庭向け電力小売りの現状は「(自由化で先行する)欧州での開始時のペースからみれば特段低いわけではない」(同)。いずれ新電力などの認知が進むことは必至だ。関電にとって猶予はそんなにない。
 
 日本経済新聞 地方経済面 近畿B,2016/09/27,ページ:10