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共通ポイント、普及の足音、インドネシア流通、顧客囲い込み、先行「ポンタ」1千万人突破(Asia300)

2016.07.20

地場系MAP「スタバ」「ザラ」などで
 インドネシアで複数の店でためたり使ったりできる共通ポイントサービスの導入が進んでいる。流通大手スンブル・アルファリア・トリジャヤ(SAT)が利用する三菱商事系の「ポンタ」の会員数は1千万人を突破、「スターバックス」などを展開するミトラ・アディプルカサ(MAP)も独自のサービスに力を入れる。日本など成熟市場で定着する顧客囲い込みのツールが成長するアジア市場でも根付き始めた。
 「もうポンタの会員登録は済ませましたか」。ジャカルタ郊外のSAT系小型スーパー「アルファミディ」の店頭で店員がポイントカードへの入会を勧めていた。名前や携帯電話の番号などを登録するだけで、その日からポイントがたまる。
 ポンタは三菱商事系のロイヤリティマーケティング(東京・渋谷)が展開する共通ポイントサービス。日本では6月末時点で7696万人の会員数を誇る。海外では台湾で現地企業にライセンス供与しているが、本格的に事業化するのはインドネシアが初めてだ。
 そのインドネシアでは会員数が11日に1千万人を超えた。昨年2月に導入したSAT系のコンビニエンスストアなど約1万1000店に加え、大手レストランチェーンや高速バス、歯科チェーンなどで採用が進む。SAT系ではアルファミディやコンビニのアルファマートの利用者の2割が使っているという。
 使い方は日本のポンタと同じ。原則、支払額200ルピア(1・6円)ごとに1ポイントがたまり、1ポイントを1ルピア相当として支払いにあてられる。
 コーヒーチェーン「スターバックス」やアパレル「ZARA(ザラ)」などのブランドを展開するMAPも今年1月にポイントを導入した。同社が持つ約150の全ブランド、約2000店で共通して使えるのが売り物で、6月末までに30万人の会員を集めた。
 共通ポイントを導入する背景には同国市場での競争激化がある。MAPの場合、2015年12月期に売上高は約12兆8千億ルピア(約1千億円)と、11年12月期から2倍以上に膨らんだが、利益は約370億ルピアと同約10分の1の水準に落ち込んだ。仕入れや販売にかかるコストの増加が重荷だ。
 市場自体は拡大している。インドネシア中央銀行の小売業売上高指数も右肩上がりだ。それでも顧客をしっかり囲い込まなければ、生き残れない。そんな危機感がインドネシア流通業をポイント導入へと踏み切らせる。
 利点は顧客の囲い込みにとどまらない。
 SATは今年、米調査会社のニールセンと組み、ポンタ導入で得られた1日400万件にのぼる顧客の購買データの分析を始めた。消費者の年齢、性別、宗教などを切り口に、誰がいつ何を買っているかを調べた。見えてきたのは「A社の幼児用おむつを買う家族層はB社の粉ミルクをよく買う」といった傾向だ。
 そこで、SATではおむつを買った25~35歳のお客にB社とは別の粉ミルクが割引になるクーポンを携帯電話のショートメッセージで配布してみた。すると、その商品の売り上げは4割も伸びた。現在は店舗で販売する商品の9割が全国共通だが、「お客の購買行動を読み取り、店舗ごとに品ぞろえを変えていきたい」とマーケティング担当のライアン氏は地域密着の販売戦略を練る。
 MAPでもポイントの導入で顧客の購買動向の把握に努める。スターバックスの利用者が、どのブランドの服を買っているか、といったことを調べられれば、特定の顧客層に効果的に商品を売り込める。ブランドの改廃や商品の見直しにつなげて収益改善を狙う。
 「消費者はどんどん賢くなっている」。インドネシアの流通大手幹部は漏らす。モノやサービスへの選別を強める消費者。それは何もインドネシアに限ったことではない。成長市場でも成熟市場と同様の厳しい競争に直面するアジアの流通企業が共通ポイントを導入する機運は日増しに高まりそうだ。
 ジャカルタ=鈴木淳
 「Asia300」は中国・香港、韓国、台湾、インド、東南アジアの上場企業から、時価総額や成長性などに基づき選びました。
 ▼共通ポイント スーパーやコンビニエンスストア、外食店など複数の小売りチェーンやサービス業で、ためたり使用したりできるポイントサービスのこと。事実上の値引きで顧客の囲い込みを進める方法は、消費の大きな伸びが期待できない先進国で有効とされ、日本や英国、ドイツなどで広く使われている。
 インドネシアで普及する三菱商事系の「ポンタ」は日本の同名のサービスとは互換性がなく、日本でためたポイントをインドネシアで使うといったことはできない。
 
 
 日本経済新聞 朝刊,2016/07/20,ページ:9