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エネチェンジ有田一平社長――電力プラン、気軽に検索、「電気選ぶ社会」実現めざす(成長の起点)

2016.06.27

 今年4月の電力小売りの全面自由化で電気は好きな電力会社から買えるようになったが、料金プランは提携ポイントやセット割引など複雑怪奇。エネチェンジ(東京・墨田)はそれを独自開発の検索エンジンで気軽に検索できるようにした。有田一平社長(34)は「電気を選ぶことは常識」の社会の実現に向けてまい進する。
 今年1月に本格稼働した電力料金比較サイトのエネチェンジ。世帯の構成人数やある月の電力使用量、生活パターンなど、いくつかの簡単な項目を入力すると、世帯にあった複数の電力会社のプランと、想定電気料金が出てくる。
 単に料金だけでなく「提携ポイント」「セット割」など重視する特徴から検索もできる。最近1カ月のページビューは280万。国内最大の比較サイトだ。
 有田氏がエネチェンジを立ち上げたのは2015年4月。学生時代にコンピューターサイエンスを専攻した生粋のエンジニアだ。最初に就職したJPモルガン証券では、債券のリサーチなどの社内システムの開発に従事した。
 がむしゃらに仕事に没頭する毎日だったが、その頃世界では米フェイスブックや米グーグルなどのシリコンバレーのIT(情報技術)企業が拡大を続けていた。「『自分たちが世界を変える』という会社を横目でみて『かっこいいな』と」
 ITが主役になれる会社に行きたいと、グリーに転職した。グリーでSNSのプラットフォーム開発など刺激的な日々を送ったが、13年6月のある人物との出会いが、人生を変える。
 その人物とはジャスダック上場の住宅設備設計会社、エプコの創業社長、岩崎辰之氏(51)。電力自由化に向け、「あらゆるデータを活用してエネルギー業界を変革する」と熱弁を振るった。例えば家庭の電力使用状況のビッグデータを収集・分析。需要を予測して時に節電を促すなどして管理する。そうすれば日本全国で電力を無駄なく使うことができる。そんなビジョンを語られた。
 決断は早かった。「よし、巻き込まれるか」。変革が必至の日本のエネルギー業界で「新しいことをやる」という岩崎氏の熱意が、有田氏の「世界を変えたい」という気持ちに火を付けた。
 岩崎氏の出資でその年、英国でデータ分析ベンチャーを設立。エネチェンジ現最高技術責任者(CTO)の白木敦夫氏(28)、同アドバイザーの城口洋平氏(28)とともに電力自由化で先行する同国の事例を研究したり、データ分析に基づく太陽光発電の発電予測システムなどを開発したりした。
 比較サイトのアイデアがわいたのは13年末。開発したシステムは電力会社に提供するなどベンチャーとして事業は順調だったがやはり「自分たちで世の中を変えたい」気持ちが芽生えたからだ。英国に移り住んだ時、現地の電力比較サイトでどの会社と契約するか決めたことを思い出した。「英国では電気を『選んで』買うのが普通。日本でもそうするのが、自分たちが一番社会に貢献できることなのではないか」
 エネチェンジは最も大事な消費予測に英国で開発した独自のアルゴリズムを使い、絶対の自信を持つ。国内最大手の電力料金比較サイトに抜きんでたが、「もっと使いやすいものを提供するためにユーザーとしっかり向き合う」。消費予測の精度も日々上げる。当たり前のことをしっかりとやり続け「世界を変える」一翼を担っていくつもりだ。(庄司容子)
トップは語る
従業員とゴール共有
 従業員はいま27人です。軽く聞こえるかもしれませんが、トップダウンで引っ張るのではなく、楽しくわいわいやりたい。一番大事にしている「『電気を選ぶ』を常識にする」というゴールを共有さえしていれば、会社は変な方向に行かないと思っています。
 自分の経験を振り返っても、人は自分の問題意識で動いた方がモチベーションもパフォーマンスも高くなります。意識の高いメンバーが集まっているので、あれこれ社長が注文するよりも自分で問題を見つけて自主的に立ち向かってもらった方が絶対にいい。僕はワンマンのカリスマ経営者タイプではないし、みんなの能力を発揮してもらって、いい結果を出したいと考えています。
 実は電力比較サイトの事業を進めたとき、予測システムの開発に集中していて出資者であるエプコの岩崎辰之社長にきちんと報告していませんでした。勝手にどんどん進めても応援してくれた。だからこそここまで大きくなったと思います。僕も社員に対して、岩崎さんにしてもらったようにしたいと思っています。
《有田社長の歩み》
2007年 JPモルガン証券入社、社内システムの開発に携わる
 12年 グリー入社
 13年 ケンブリッジ・エナジー・データ・ラボを共同設立
 15年 エネチェンジを設立、代表取締役に就任
 16年 電力小売りが全面自由化
 
 
 日経産業新聞,2016/06/22,ページ:17