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共通ポイント、お得なの?――ためる機会増え、企業も経費削減(ニッキィの大疑問)

2016.06.13

 色々なお店で買い物したり食事したりするたびにポイントがもらえる「共通ポイント」が広がっているようね。どうしてなのかな。
 共通ポイント制度をテーマに、高倉まなみさん(45)と青木経子さん(55)が田中陽編集委員の話を聞いた。
 共通ポイント制度を手掛ける企業が増えていますね。
 「これまで共通ポイントは、TSUTAYAの会員カードとして始まったカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)系の『Tポイント』、ローソンが採用する三菱商事系の『Ponta(ポンタ)』、ネット通販大手の楽天による『楽天スーパーポイント』の3つの陣営がしのぎを削っていました。そこにNTTドコモが2015年12月、『dポイント』で参入し、ローソンの店舗ではポンタに加えてdポイントもためたり使ったりできるようになりました。競争がさらに激しくなっています」
 「東日本旅客鉄道(JR東日本)も今年2月から共通ポイント『JREポイント』の発行を始め、電子マネー『Suica(スイカ)』や駅ビルなどグループ内で20種類以上あるポイント制度を19年ごろまでに統合する計画です。イオンも『WAON(ワオン)ポイント』を6月中にも他社に開放し、共通ポイント化する見通しです」
 「野村総合研究所によると、国内主要企業のポイントと航空会社のマイレージなどを合算すると14年度の発行額は約8300億円に相当し、20年度には1兆円を超えると予測しています。大ざっぱな計算ですが、仮に100円の買い物で1ポイントがもらえるとすると、1兆円分のポイントを稼ぐためには100兆円分の買い物をすることになります。これは個人消費全体の約3分の1に相当する計算です」
 わたしたち消費者にはどんなメリットがありますか。
 「企業(店舗)ごとにポイント制度が別々になっていると何枚もカードを持たなければなりませんが、共通ポイントなら1枚で済ませることもできます。スーパーとコンビニ、飲食店、ネット通販など複数の業種でポイントをためたり使ったりできるので、ポイントをためる機会が増え、使えずに期限が来て無駄になるポイントは減ることになるでしょう」
 企業にはどんなメリットがあるのでしょうか。
 「ポイントを管理するにはシステム整備など多額のコストがかかります。共通ポイントを運営する企業に管理を委託すればコストを大幅に減らせます」
 「購買履歴データを分析して販売促進活動や商品開発など、様々なマーケティングに生かせます。もちろん、自社で独自のポイント制度を運営していてもある程度のデータは得られますが、あくまで自社の顧客に限定されます。共通ポイントなら、企業や業界の垣根を越えてデータを集めることができます」
 「たとえば、人気歌手のCDやDVDをよく借りる人は濃い味のビールを好み、特定の銘柄の化粧品やアイスクリームをよく買う、といったこともわかるようになるのです。さらに、個々の顧客ごとに、どういう商品やサービスへの関心が高いか、逆に関心が低いのは何かといった情報――いわば『顧客DNA』もわかるようになります」
 わたしたちが気をつけなければいけないことはありますか。
 「そもそも共通ポイントが広く普及してきた背景に、消費者の節約志向、『お得』志向があると考えられます。同じ商品を買うなら少しでも得するお店で買いたい、と考える人たちがポイントに魅力を感じているわけです。しかし、ポイントにばかり目が向いて、ほかの店より価格が高くてもポイントをもらえる店で買ったり、『きょうはポイント2倍セールだから』といって余計なものまで買ったりすれば、本末転倒ですね」
 「自分の購買データを企業によって収集・分析されることに不安を感じる人もいるかもしれません。各社のポイントカードを申し込む際には、どういう情報を収集するのか、利用範囲はどこまでか、文書で示されますが、そこまで気にしていなかった、ということも多いでしょう。共通ポイントを利用する消費者は、自分の購買データを企業に提供する見返りとしてポイントをもらえるのだ、ということを理解しておく必要があります」
ちょっとウンチク
松下幸之助氏、将来性見抜く
 日本における共通ポイントの原型は今から約55年前ころにさかのぼる。買い上げ金額に応じて切手のようなサービス券をもらい、台帳に貼って、一定の枚数がたまればカタログの中からその枚数に応じた商品を手に入れることができた。この事業の将来性をいち早く見抜いたのは松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏だった。幸之助氏が消費財メーカーなどに働きかけてポイントマーケティングなどを手掛けるグリーンスタンプが設立された。
 同社設立発起人には幸之助氏の他に味の素の鈴木恭二氏、サントリーの佐治敬三氏、朝日麦酒(現アサヒビール)の山本為三郎氏らが名を連ねる。いずれもマーケティング巧者といわれる人たちだ。
 当時はスーパーなどチェーンストアが台頭し、顧客サービスの一環として多くの小売業が採用し、一気に普及した。最近は流通系が主導する共通ポイントだけでなく、楽天、NTTドコモなどネット系、IT系の存在感も見逃せない。これも消費構造の変化でもある。
 
 
 日本経済新聞 夕刊,2016/06/06,ページ:2