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エネルギー10兆円市場争奪、電気・ガス選ぶ時代に――電力小売り自由化、新電力、セット割で攻勢(マンスリー編集特集)

2016.05.02

 電力小売りが4月1日から全面自由化された。大手電力会社による地域独占体制が崩れ、ガスや石油などの新電力各社が攻める構図だ。価格やサービスのメニューも多彩で、消費者が生活様式に合わせて電気を“選べる”時代になった。2017年4月にはガス小売りも全面自由化される。電気とガスを合わせて10兆円の巨大市場が開かれ、日本のエネルギー産業は大きな転換点を迎える。
 一般家庭が電力の購入先を選べる電力小売りの全面自由化が始まり、およそ1カ月。首都圏を中心に顧客獲得競争が進み、家庭向け営業網を持つガス会社や石油元売り大手といった新電力が「セット割」を前面に打ち出して攻勢を強めている。ただ都市部と地方では盛り上がりに差があるほか、電気使用量が少ない世帯は新料金でメリットが出にくいといった課題も多い。本格的な普及に向けてはまだ道半ばだ。
 経済産業省の認可法人、電力広域的運営推進機関がまとめた電力契約の切り替え件数は15日時点で68万3000件だった。3月31日時点と比べて3割以上増加。全国の世帯数に占める割合はまだ1%程度にとどまるが、電力小売り自由化が徐々に浸透していることが数字から見て取れる。
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 新電力に契約を切り替えると最大で10%程度電気代が安くなるほか、ほかのサービスとのセット割などが活用できる。顧客獲得を順調に進めている新電力が、ガス会社や石油元売りなどのエネルギー事業者だ。
 関東地方で家庭向け電力小売りを展開する東京ガスは、契約件数が30万件に迫る勢いだ。
 東ガスの広瀬道明社長は「改めて新規顧客獲得は大変だと実感している」と話すが、新電力の中で最大の顧客数を獲得しているとみられる。都市ガスやインターネット通信とのセット割を用意しているうえ、ポイントサービスも充実している。追加値下げで割安感を打ち出したことも大きい。
 しかも、同社は自前の発電設備を保有しており、ガス事業で培った1100万件の顧客基盤も持つ。関東に200以上のガス器具販売店網があることも強みだ。各戸へ出向き、契約を切り替えた場合にどの程度メリットが出るかをシミュレーションする対面営業で契約数を増やしている。2016年度に40万件の契約を目指す。
 関西で展開する大阪ガスも11万件を超えた。都市ガスとのセット割や2年契約の割引、家庭用燃料電池「エネファーム」を導入している家庭向けプランを用意している。大ガスは16年度に20万件の顧客獲得を目指しているが、すでに半数以上を確保した格好だ。
 石油元売り大手のJXエネルギーの「ENEOSでんき」も申込件数が10万件を超えた。月間電気使用量が180キロワット時程度の家庭であれば、既存の電力料金よりも割安になる。ガソリンや軽油も値引きサービスとなる。早期に50万件の顧客獲得を目指す。
 石油元売りでは東燃ゼネラル石油や昭和シェル石油も電力小売りに参入。LPガス事業者と連携して売り込んだり、電気料金はこれまでとほとんど変わらないがガソリンを大幅に値引いたりと、プランや戦略が多様化している。
 東京電力ホールディングスと手を組むソフトバンクやKDDIなど、大手通信会社も参入。テレビCMなどの広告宣伝にも力を入れており、競争は過熱している。資源エネルギー庁に登録された小売電気事業者は4月18日時点で290社弱にまで増えている。
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 一方電力大手は既存顧客の囲い込み戦略を打ち出している。各社は電気使用量が多いと従来よりも割安な新プランや、時間帯で料金が異なるプランなどを用意している。中国電力は地元広島のプロ野球チーム、広島東洋カープの成績に応じて独自ポイントがたまるサービスを始めるなど地域色を出した売り込みも進む。
 東電HD傘下の電力小売り会社、東京電力エナジーパートナーは使用量の多い家庭やオール電化の家庭で割安となる新プランを用意。日本瓦斯などと連携しセット割も打ち出す。ただ東電HDの広瀬直己社長は「これから新メニューを出す企業もあるだろう。状況を見極め、我々も新たな手を打つ」と語る。
 もっとも、電力自由化には課題も多い。電力契約を切り替えたうち、およそ9割弱は首都圏と関西圏が占める。契約切り替えも事業者の参入も大消費地に集中しており、ほかの地域との差が生じている。
 電力自由化には新規参入のほかにも、電力大手が自社管内以外に越境して電気を販売できるという側面もある。東北電力や九州電力グループなどが首都圏での電力販売に乗り出すが、各社が狙う地域も首都圏に偏っている。
 使用量が多い家庭にメリットが出るプランが多いことも今後の課題といえる。大家族をはじめ、ペットを飼っていて常に空調を使う家庭など、比較的電気使用量が多い利用者向けに割引率を高める傾向が強い。昼間に家を不在にしている家庭や一人暮らしの学生などにとって割安となる新プランがないのが現状だ。
 使用量の低い世帯向けには現状でもすでに安い料金が設定されている面もあるが、使用量が多い家庭向けに割り引くと「省エネに逆行する」という指摘もある。さらなるプランの多様化が期待される。
 また、次世代電力計(スマートメーター)の設置が一部地域で遅れていることも懸案の一つだ。
 全面自由化はスタートしたが、いまだに様子見の消費者は多い。自由化で市場を活性化するには、これら課題の解決に早期に着手することが求められそうだ。
 
 
 日経産業新聞,2016/04/28,ページ:15

 

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