ニュース

TSUTAYAのCCC、増田社長に聞く、ネットに勝る「快適」磨く、顧客の「欲しい」徹底追求。

2016.03.31

 東京・代官山のT―SITE、公立図書館、蔦屋家電――。ネットが当たり前に生活に入り込むなか、話題を呼ぶ店舗や施設を次々に手掛けてきたのがカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。気がつけば最大手の書店チェーンであり、日本最大規模のポイント会員を抱えるTポイントを運営する。「CCCは顧客が何を求めているかを考える企画会社である」と言い切る創業者の増田宗昭社長に胸の内を聞いた。
(聞き手は日経MJ編集長 下原口徹)
=関連記事4面に
 ――ネットとリアルがせめぎ合う世の中で「店」に商機があると思った理由は何ですか。
 「CCCの最大の原則は顧客中心主義です。顧客が何を求めているかを重視します。ではいま顧客はネットと店のどちらに価値を見いだしているか。6つの項目で比較した星取表を作りました。『価格』や『品ぞろえ』ではネットが勝つ。商品の『レコメンド(推奨)』は購入履歴が残るネットにはかなわない」
 「では店が勝るものはないのか。今の時代ではスマートフォン(スマホ)が相手です。そう考えれば『居心地』では店が圧倒的に勝てますよね。『受け取り』はどうか。いくらドローンで配達するといっても、今晩のしゃぶしゃぶの白菜を頼む人はいないでしょう。近くですぐに手に入りますからね。受け取りではこのすぐが大切。すぐに商品を持ち帰れるキャッシュオンデリバリーができるリアルが有利です」
 ――ネットができないものを探すわけですね。
 「『コミュニケーション』も店が勝ちます。商品がずらりと表示されるネットより、対面にして商品知識を持ったコンシェルジュが接客すればよい。こう考えるとネットと店は3勝3敗なのです。リアル世界の優勝劣敗も説明がつく。価格で勝負したスーパー、品ぞろえで勝負した百貨店はともに右肩下がり。しかし身近な店ですぐに商品が受け取れる顧客価値で勝負するコンビニエンスストアは伸びるのです」
 ――ネットに勝てるような店を実際に代官山に作ったわけですね。
 「リアルに可能性があると気付いたから。居心地感のある店舗を作れば勝てるだろう、と考えて作ったのがT―SITEです。ただ単なる店を作っても仕方ない。消費を経験し、なおかつお金を持っているシニア層、僕らは『プレミアエイジ』と呼んでいますが、この層を呼び込むにはどうすればいいかを考えました。そんな空間とは何か。店ではない、『家』だろうと思い至った。だから店にあるもの、値札や販売員、POS(販売時点情報管理)端末などは全て見えないようにして、朝早くから夜遅くまで開いている居心地感を大切にしたわけです」
 ――代官山というすごい立地ですが採算は取れているのですか。
 「小売りをしてはいけない立地です。ただ金額はいえないけれど坪単価は大変高くて郊外店舗の3倍は売れる。ちゃんと収益を上げています」
 ――ネット時代にもリアルで勝てることが証明できたわけですね。
 「ただ、ネットとリアルのどっちが勝つか、には興味がない。これからは融合です。『選ぶ』ことが消費のカギになるからです。昔、白木屋は蔵から一部商品を出し呉服屋の店頭でお客に見せた『座売り』が評判を取りました。三越は『蔵出し』して店内陳列した。百貨店は蔵ごと見せるようにしたわけです。選ぶ範囲を広げることが小売業の改革、イノベーションでした。では楽天はどうしたか。店頭だけではなくメーカー在庫まで選べるようにしたわけです」
 ――すごく変わったように見えるが範囲が広がっているだけだ、と。
 「顧客を中心にして考えれば、店だとか電子商取引(Eコマース)とか関係ない。選ぶ範囲が広ければいい、というだけ。それが顧客価値。それならリアルとネットは一体化した方がいい」
 ――T―SITEはシニア層に特化した店ではないですよね。
 「今の日本は年収200万円以下が1800万人。200万~400万円が1800万人。3600万人が400万以下です。車は買えないし、ファッションにぜいたくはできない。だから安いものが受け入れられたのです。もっとも代官山では併設の店舗で3種類のコーヒーが飲めます。カフェの800円、スターバックスの400円、そして息子が店長を務めているファミリーマートの100円コーヒー。実はプレミアエイジも若者にも全ての層に楽しんでもらう店なのです」
 ――東京・二子玉川の蔦屋家電も話題を呼びました。狙いは。
 「2014年の調査ですが、ネットで何を買っているかという調査があります。『ネットだけ』『ネットが多い』『ネットと店が同じくらい』を合わせた数字で最も多かったのが本の55・2%でした。それをT―SITEで実現させたわけです。2位に入ったのが家電で43%。それを蔦屋家電で実現させただけです。まだ採算は取れていませんが、お客さんの強い支持があるのは分かりました。この調査の順番通りに店づくりをやろうともくろんでいます」
図書館、需要育む場に
 ――公立図書館運営では賛否が分かれ、大きな話題になりました。
 「まず本屋はもうかると思いますか。15年は全国で668店舗が閉店するなどピークの2万2千軒から1万3千軒にまで減りました。全国の332市町村に本屋がないのが現実です」
 「僕らは必ず顧客調査をしてからプロジェクトを始めます。各地で『何が欲しいですか』と尋ねると上位にカフェと本が挙がります。本には顧客価値があるのです。だけどアマゾンにやられてもうからないから廃業するという構図。もっとも本屋の売り上げが上がらないというのは間違い。やり方が悪いだけです」
 「本屋はライフスタイルを提案する場所です。僕らは本屋でもレンタル屋でもなくライフスタイルを提案する集団なのです。本を通じて、音楽や映画を通じて新しいライフスタイルに出会えるから顧客は心地よさを感じてもらえるわけです」
 ――いつの間にか書店チェーン最大手です。
 「大手書店は右肩下がりですが、我々の15年売上高は1251億円。お客さんが求めているからこれから各地に出店します。3年後には2千億円を超えるでしょう」
 ――なぜ公立図書館運営を手掛けるのですか。
 「僕は地方創生の目玉だと思っています。日本の発想は高度成長時代の供給力強化の戦略から抜け出せない。人口減社会の今、1人当たり需要を増やすしかない。軸を需要力強化に転換するのです。ホテルや車の本を見たら旅行に行きたくなるでしょう。旅行に行きたくなるなら服を買いたくなる。これが需要力強化。それを無料で体験できる場所が図書館。誰でも利用できます。地方創生を考えている自治体があるならその資金で図書館を作りましょうと提案しているわけです。しかも居心地の良い空間のある図書館をね」
「Tポイント」
情報 成長の礎
 ――「Tポイント」も日本最大級の会員数がいるカードとなりました。
 「Tポイントの発行枚数は1億7千万。日本の人口より多い。しかもアクティブ会員は5743万人です。ポイントカードは世の中にあふれていますが、統合したデータはない。企業がデータを囲い込むから。顧客には1枚でいいはずのカードを何枚も持たなくてはならなくなる。僕は顧客主義だから競争をなくして1枚で済むカードを作ろうという発想です。Tカードが突き抜けた理由は顧客が『ハッピー』と思ってくれたから。簡単に言えば何枚も持つ負担を取り除いたからです」
 ――提携会社を1業種1社に絞ったのも独自の取り組みでした。
 「同業種の企業は競争していますからどこでも入れますなんて言ったらデータが集まらない。ただ企業に目線を置いては長続きしない。徹底して消費者がどう思うかを考える。消費者がハッピーだと思ってくれれば逆に企業は来てくれます」
 「同業種で(売り上げや勢いがあるといった)一番企業を加盟するよう誘っています。それは『ディレクTV』で痛い目にあったから。せっかくいいものを作っても力のある企業が後から来てウワーッと宣伝してしまうとつぶされるという恐怖です。基盤事業は力のある人がやるべき。その教訓を生かして大手の追随があることを前提に今回は陣営を固めたのです。予想通り大手が参入して来ましたが、すでに陣営をしっかり固めた後だから問題はありません」
 ――Tポイントの事業価値は高いですね。
 「僕らはTポイントでデータを集積し加盟企業ごとに専任チームを置いて個別にデータマーケティングを行います。Tポイントが成長期に入るのはこれからです。ちなみにネット対店の星取表で『レコメンド』ではネットに負けるという想定でしたが、Tポイントを入れたら普通の小売業もデータベースを持つことになり引き分けに持ち込める。つまりネット対店は3勝2敗1分けで店が勝ち越せる計算なのです」
 
 
 日経MJ(流通新聞),2016/03/30,ページ:1