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激震ポイント経済圏(下)「T」「ポンタ」ネットに活路――先行2社伸び悩む店舗、ヤフー・リクルートと関係深化。

2014.10.31

 ID統合し利便性向上
 楽天が参入したことで大きく変わろうとしている共通ポイント市場。
 先行する「Tポイント」は2002年から、「ポンタ」は10年からサービスを始めており、実店舗での知名度は圧倒的だ。ただ、実店舗との提携は伸び悩んでいる現状がある。そこで両社はそれぞれインターネット分野に強い企業と提携。ポイントの利便性向上を図ろうとしている。
 16日、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)はスマートフォン(スマホ)向けの「Tポイントアプリ」を刷新したと発表した。無線通信技術「iBeacon(アイビーコン)」を使い利用者がTポイントの提携店舗に来たり、特定の地域に行ったりすると、スマホに自動的にクーポンが配信されるサービスも提供するという。
 業界では1日に共通ポイントに参入した楽天への対抗策とみられている。CCC傘下のTポイント・ジャパン(東京・渋谷)が運営する「Tポイント」は9月に会員数が5000万人を突破。月に約3500万人が利用する最大手だが、楽天参入への危機意識は強いようだ。
 もともとCD・DVDレンタルの「TSUTAYA」でポイントカードとして使っていたTポイントが共通ポイント化したのは02年。3強の中では立ち上げが最も早く、実店舗への導入を急速に広げた。
 1業種1社
 中核となるコンビニエンスストアはファミリーマートだが、実は立ち上げの頃にTポイントと提携したのはローソンだった。ローソンは07年3月にTポイントを離脱。10年に三菱商事グループがポイント市場に参入し、子会社ロイヤリティマーケティング(東京・渋谷)が「ポンタ」の運営を始めると、同じく三菱商事系のローソンもこれに合流することになったからだ。
 「1業種1社」。既存のポイント勢が暗黙の了解としてきたルールだ。コンビニエンスストア、コーヒーチェーン、ガソリンスタンド――。生活のさまざまなシーンで利用する小売店やサービスを広く網羅しながら、業種ごとに1社と決めたのは、「競合他社との差別化を売りにしたいから」という加盟店側の要望に配慮したから。だがこうしたくびきが、各ポイント連合のこれ以上の発展を妨げている可能性がある。
 事実、先行する2社は実店舗との提携が伸び悩んでいる。地方の企業を除くと実質的にルールを撤廃できていないため、今後大幅に提携店舗が増えるとは考えにくい。
 ルールに風穴
 楽天の参入はこうした硬直したルールに風穴を開ける。「1業種1社という枠組みを設けていない」(楽天の三木谷浩史社長)。たとえばTポイントを提供しているコーヒーチェーンのドトールにも、ポンタを扱う昭和シェルのガソリンスタンドにも門戸を開放する。
 Tポイントやポンタ陣営の中でも、1業種1社というルールの運営を柔軟に見直すかどうかという議論はある。加盟店にとっては、ポイント陣営の認知度やアクティブユーザーの数、契約料の安さなど諸条件に敏感だ。
 楽天の「オープン戦略」で、かつてのポンタとローソンのような加盟店引き抜き合戦がおこり、一つの店舗で複数のポイントが使えるようになれば競争原理が働く。来店客にとって特典が増す可能性もある。
 既存勢力にとってもう一つの課題がインターネット分野の開拓だ。Tポイント・ジャパンは10年、ヤフーとの資本・業務提携を発表。ヤフーショッピングなどでためたポイントをTポイントとして使えるようにした。13年にはIDの統合も完了し、両社がもつ購買行動などのデータを相互利用してマーケティングに活用できるようにした。
 現在、ヤフーショッピングの出店数は13万4000店(開店準備中の店舗も含む)。だが、Tポイント・ジャパンの北村和彦副社長は「ショッピングだけでなくヤフーのもつメディア力に期待している」と話す。
 ポンタを運営するロイヤリティマーケティングもインターネット分野の強化を図っている。同社は4月、リクルートと提携を発表。7月末からはポイントの相互交換を始めた。利用者はリクルートが運営する宿泊予約の「じゃらん」や美容院予約の「ホットペッパービューティー」などでためたポイントをポンタに交換し、ローソンやゲオなどの実店舗で利用することができる。両社も15年春にIDを統合する。
 だが現状ではインターネット分野でのシェアでは楽天が圧倒的だ。楽天は実店舗でも今後数年以内に5万店との契約を目指しており、三木谷社長は「楽天の加盟店戦略はこれまでにない全く新しいものになる」と意気込みを見せる。
 楽天はカード代わりになるアプリなどの新サービスを立ち上げ、加盟企業への付加価値を提示しようとしている。アプリを使ったクーポンやサービス情報を通知やもとより、楽天が持つ9400万人の会員に向けてメールなどで訴求することもできる。今後は実店舗の店舗間だけでなく、ネットとリアルの間での相互送客や、加盟店に向けた新たなマーケティングサービスがポイント経済圏拡大の鍵となりそうだ。
 
 
  日経産業新聞,2014/10/17,3面